武田邦彦「『リサイクル』してはいけない」

(2000/03/20)

 帯に「ペットボトル、紙のリサイクルに意味はない!」と「!」強調つきで明言している。現在の「環境保護派」のメインストリームにケンカを売っているのではないか、と他人事ながら、ちょと心配してしまう。著者自身、立派な環境保護論者らしいのだが、「内ゲバ」は怖いからねえ(笑)

 簡単に言うとこういうことらしい。ペットボトルをリサイクルしようとすると、回収、分別、再生といったプロセスを通じて、新品の3倍から7倍の資源やエネルギーを使う。ペットボトルの原料は石油から合成されたもの。だったら、リサイクルなどせずに焼却して、熱エネルギーとして利用したほうが効率が良い、と。

 紙の場合は、森林資源の保護が言われるが、熱帯雨林など、開発途上国の森林の減少は主に現地人の焼畑農業等によるものであり、紙の生産とは関係ない。紙の生産に使われるのは、主に先進国の森林だが、伐採と植林のサイクルにより、減少どころか増加している。森林は繰り返し利用が可能な「月給型」の資源だが、紙をリサイクルするには、トラックで回収したり、インクを抜いたりと、石油や鉄鉱石など「遺産型」の資源を使う必要があり、資源保護の主旨に反する。よって紙も、リサイクルなどせず焼却したほうが効率が良い、と。

 なるほどもっともな意見である。だがしかし、こうした意見が「環境保護派」にストレートに受け入れられるのは難しいだろうなあ、と三鷹は想像する。そもそも「環境保護」というのは、多分に精神主義的側面の強い運動であり、大局的視点よりも、賛同者個々の「実感」を基盤として行われているからだ。例えばペットボトルならば、あのキラキラとした透明で綺麗なプラスチックを、たった一回使っただけで捨ててしまうと思うとバチが当たりそうだが、「リサイクル」してもらえるなら安心できる。そのために何をしなければいけないかと言えば、とても簡単。今まで「不燃ゴミ」と一緒に捨てていたペットボトルを、分別して回収箱に入れるだけ、と。こうした「草の根」レベルの「環境保護」への意欲を、武田の著作はものの見事に破壊する(笑)

 ペットボトルそのものを否定するほうが、「環境保護派」としては、より原理主義的であり「正道」かもしれない。ペットボトル入りのミネラルウォーターや清涼飲料水の類はいっさい購入せず、牛乳瓶や一升瓶のような、リターナブルな容器を使った飲料のみを消費する、と。でも、重いガラス瓶を往復するのは、軽いペットボトルを片道送るよか、余分なエネルギーを使うことだろう。だったらいっそのこと、水道水だけ飲んで暮らせば良いだろう、と三鷹は意地悪く考えてしまうが、「環境保護派」によれば、水道水にはアレコレ危険な化合物が含まれているのだそうだ。ホント困ったものだ。

 この本の最初に、アメリカ五大湖地方の「ロイヤル島のオオシカ」のエピソードが紹介されている。天敵のいないロイヤル島に渡った20頭のオオシカは、12年後に3000頭にまで繁殖したが、島の草木を回復不能なまでに食いつくして次々に餓死し、10年後には800頭に減少した。そこに16頭のオオカミが渡ってきて、オオシカを淘汰し、数年後、オオカミ20頭オオシカ600頭という構成で安定した、とのこと。著者は、このオオシカに人類を重ね合わせて、「人間にとってのオオカミとはなにか?」と問い掛けているのだが、その回答は明示されているとは思えない。せいぜい「オオシカの現状認識と反省」てなところだろう。

 人類に天敵が存在するとしたら、人類のある部分に対する「オオカミ」となろうと意識的に振る舞う、別のある部分だ。歴史的には、ナチスドイツがその一つ。自らを「優越種」と称するゲルマン人が、「劣等種」ときめつけたユダヤ人や黒人などを淘汰することにより、人類により良い未来をもたらそうとした。

 現在、人類のマジョリティはナチスを否定している。それは理の当然として、さて「代案」はあるのだろうか? 大量消費文明への「反省」が一部にせよ行われているのは、現に大量消費文明の享受者である一部の先進国だけで、それ以外の開発途上国は、先進国に追いつけ追い越せと、来たるべき大量消費文明への道をひた走っている。その趨勢をとどめることは不可能だろう。とりわけ、先進国の人間が何を言っても説得力を欠く。

 ならば、オオシカの例に即すなら、オオカミ以前に餓死した2200頭ではなく、生き残った800頭の中に「自分たち」を残すにはどうすれば良いか? それを考えるのが、実際的なのかもしれない。少なくとも、現在の日本のエネルギーや食糧の自給率を見た限り、日本人は全体として「餓死する2200頭」に属することは、まず確実なようであるが。

武田邦彦「『リサイクル』してはいけない」
青春出版社 2000年2月5日発行 850円
ISBN4-413-01783-8

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