「少年版江戸川乱歩選集」

(2000/07/07)

 1970年に講談社が全6巻で出したシリーズだ。「作品編集・中島河太郎」でジュヴナイルとしてリライトされたものだが、ラインナップが凄い。「蜘蛛男」「一寸法師」「幽鬼の塔」「幽霊塔」「人間豹」「三角館の恐怖」の6作品だ。乱歩ミステリの中でも、特に猟奇色の強い作品が選ばれている。

 「蜘蛛男」は、若い女性を次々に殺害して、死体を石膏像に加工する猟奇殺人者の物語だし、「一寸法師」はタイトルそのまま、身体障害者である小人が、上流階級の人妻を相手にSMやら何やらを何しちゃったりする物語だ。

 こんなんを「少年」に読ませてよいものだろうか、とも思う。読みたい少年は、当時だったら、春陽文庫版あたりで勝手に読んだことだろう。わざわざ「少年版」と銘打って出す以上、その「猟奇」をこそ、いちばんホットな刺激として、確信犯的に少年に売りつけようとしたのだろう。三鷹自身、出版社に禄を食む身になった今は、この手の企画意図は、手に取るように実によく分かる(笑)

 それにしても、このシリーズは、パッケージングがハマりすぎていた。化粧箱と、表紙、口絵は、当代人気のイラストレーター生頼範義によるリアルなイラストで、ビジュアル効果は満点だった。いや、満点以上の150点を差し上げよう。企画意図を超えた「効果」があったんじゃないか、と思う故の採点だが。

 「一寸法師」を例にとれば、箱イラストは、金髪のキューピー人形の首がゴロリと転がった後ろに、人形の胴体があり、首を砕きとられた人形の「傷口」から、中に封じ込められていた女性の死体の青黒い顔が覗いている、という凄まじい構図だ。口絵は、そのキューピー人形を作成する過程なのだろう。真紅の衣をまとった「一寸法師」が、右手に長い肉切りナイフ、左手に肘から切り取られた女性の片腕を持っていて、その前にはひざから切り落とされた片足がある。その後ろには、手足を失った女性の全裸死体が見える。

 よくもまあ、こんな本を出したものだと、感心してしまう。今同じ企画をやろうとしたら、相当に難しいだろうなあ。いろんな意味で。

 当時、小学生だった三鷹にとっては「猟奇」を通り越して「恐怖」だった。「一寸法師」のみを自分で買って読んで、残りは学校の図書館で読んだのだが、どれもマジ怖かった。「一寸法師」では、女性の死体をピアノの中に隠す、というくだりがあり、当時三鷹の家にはピアノがあったもんで、そのピアノまで怖くなった。グランドピアノならともかく、家の安っちいアップライトピアノに死体を隠せるスペースなど、あるはずもないのだが、それでも怖くて、寝る前にはふたを開け、死体など入っていないことを確認したものだった。

 今となっては、良い思い出である。これは三鷹の持論なのだが、こどもの頃のこうした「恐怖体験」というのは、実に貴重なものだと思う。もちろん、こどもに対する虐待とか暴行とか、深いトラウマになるような本物の恐怖ではなく、成長した後には笑って話せるような、フィクショナルな、カッコ付きの「体験」だからこそ、そう言えるのだが。

 そんなこども時代が過ぎ去った後、三鷹の学生時代以降に、早稲田や神田の古書店で、このシリーズを見かけ、そのたびに買い求めた。別にレア本とかそんなんじゃない。特価本コーナーに100円均一で出ていることが多かったかなあ。10年ぐらいかかったが、全6巻を化粧箱付きで揃えた。美本でもなんでもない、どれもこどもの手で手荒く扱われて傷だらけの本だが、このシリーズは、三鷹にとっては宝物の一つである。


「少年版江戸川乱歩選集」全6巻 講談社 1970年発行 絶版


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