ミカン箱殺人事件

(2003/11/15)

 三鷹は実は暴力団組長で、その極悪非道ぶりは業界でも最悪との評判である。

 三鷹が地上げしようとしたアパートに、不法入国の外国人が10人住み着いていて、脅してもすかしても出て行こうとはしない。そこで一計を案じた。「伊豆大島へ慰安旅行へご招待」という手紙を書いて、子分たちに届けさせた。怪しむ外国人たちを無理やりアパートから引きずり出し、用意したチャーターバスに乗せ、竹芝桟橋まで連れて行った。子分ともども外国人たちを大島行きのフェリーに乗せた。フェリーが出航して、沖へ50キロほど出たところで、頃合良かろうと「この先、大島までは自分で行きな」と外国人たちに告げた。子分たちに命じて、そこらへんに転がっていた大島名産ミカン箱の空き箱に外国人を一人ずつ詰め込んで、はみ出したところもまとめて全部ロープで縛って、海に放り込ませた。たちまち全員溺死して、死体は海底に沈んでいった。三鷹が大島から帰った頃には、アパートは無事地上げされ、跡形も無かった。

 運が悪いことに、複数の目撃者がいて、三鷹は子分ともども警察に逮捕された。逮捕の際には銃撃戦になり、警官と子分双方の数人が死傷、怒り狂った警官たちに三鷹はタコ殴りにされた。マスコミは「ミカン箱殺人事件」と、大々的に報じた。

 厳しい取り調べの結果、三鷹も子分たちも犯行を自供し、裁判によって、三鷹の死刑が確定した。現在、刑の執行を待つ間に、独房でこの手記をしたためている。

 ところが驚いたことに、三鷹の無罪を主張するグループが活動しているらしい。犯行には直接関与しなかったとして不起訴になった元子分も参加しているが、それだけではない。暴力団本のライターと出版関係者、ヤクザグッズの製造販売業者、背後には「攘夷」を主張する政治団体もいるようだ。彼らは自分たちの主張を出版物やインターネットで訴えている。

 彼らの主な主張を箇条書きにしてみよう。

1.三鷹が殺人を命令したという文書は存在しない。あるのは「大島慰安旅行招待状」である。
2.命令は口頭でなされたと証言にあるが、それは「こいつらを大島まで行かせてやんな」であり、「殺せ」という言葉は使われていない。
3.三鷹は逮捕の際に暴力を振るわれている。三鷹の自供は拷問によるものであり、信用できない。
4.溺死による死亡であるという検視報告書は存在しない。それどころか、死体そのものが存在しない。
5.犠牲者はミカン箱に入れられたというが、犯行に使われたミカン箱は現存しない。

「そもそもアパートに外国人などいなかった」という主張もある。アパート自体が現存しない。外国人が住んでいたという目撃証言は複数あるが、居住者数については5人から20人まで4倍もの開きがあり、信頼性に欠ける。住民票その他、彼らが存在したという物的証拠は無い、と。

「ミカン箱はミカン輸送用で殺人用ではなかった」という主張もある。
「より丈夫なリンゴ箱じゃなく、ミカン箱を使ったのは不自然だ」という主張もある。
「ミカン箱は海水に浮くから、被害者を溺死させるのは不可能だ」という主張もある。
「狭いフェリーの中なのに事件を目撃していなかった人間のほうが多いのはおかしい」という主張もある。

「海水に人間を短期間で殺傷する力があるのか?」というものもある。「赤ん坊から老人まで、毎夏何万人もの人間が快適安全に海水浴をしている。海水にそのような危険性があるとは思えない」というのだ。

 現に犯人であり被告を経ていまや死刑囚である三鷹の目から見ても、こんなアホらしい主張が通用するとはとても思えないのだが、これで納得する連中もいるらしい。世の中とは実に不思議なものである。

 パンフレットで、インターネットで、彼らは何度と無く繰り返す。
「三鷹が有罪だというのなら『有罪派』は証拠を出すべきだ。たった一つでもいいから確実な証拠を。しかし『殺人命令書』も『検視報告書』も無い。『死体』も『ミカン箱』さえも出てこない。『事件』など起こってない。すべてはでっちあげだったからだ」と。

 はてさて、三鷹はどうなるのだろう? 冤罪(?)とされ、死刑を逃れられるなら、それ以上の幸せはないのだが。無事シャバに戻れたら、そうだな、今度はもっと丈夫なリンゴ箱を使うことにしよう。


※もちろん、上記はフィクションである。このフィクションが何を指し示しているかは、解説不要だろう。


本棚へ。

トップへ。