「戦争における『人殺し』の心理学」
(2004/06/10)
デーヴ・グロスマン「戦争における『人殺し』の心理学」ちくま文庫 を読了。
学ばされるところが多かった。訓練された兵士と言えども、戦場において目前の敵を殺すことへの抵抗感は意外なほど強いらしい。第2次大戦時のアメリカ兵で、敵を前にして発砲できた兵士は15%〜20%に過ぎなかったという。「コンバット」から「プライベート・ライアン」まで、ドラマや映画に描かれた兵隊は虚像だったのね〜。
この事実に衝撃を受けた軍当局は、兵士の訓練法を変革した。新しい訓練法は、まず「脱感作」と呼ばれるもの。一般社会の常識とは正反対に、殺人を積極的に肯定する。「貴様らの仕事は殺し屋だ!」と新兵の耳元で怒鳴りつけ、ランニング中に「ファッキンコミーは皆殺し」と歌わせたりする類。「フルメタル・ジャケット」のハートマン軍曹を思い出そう。次に「条件付け」。従来の射撃訓練は、オリンピックの射撃競技のように整然と円形の的を撃っていたのを、物陰から突然飛び出してくる人型の的を撃つなど、より実戦に近いやり方に変える。考える前に反射的に身体が動くようになるまで訓練する。その結果、ベトナム戦争時には発砲率を90%〜95%にまで高めることができた、と。
ベトナムに送り込まれたアメリカ兵280万は、訓練の成果を生かして北ベトナム兵やベトコンを殺しまくった。だが、帰還兵を再度一般社会へ受け入れるセレモニーを当時のアメリカ社会は欠いていた。それどころか「赤ん坊を殺してきたんか?」と面罵し、唾を吐きかけた。結果、50万〜150万もの帰還兵が長年にわたるPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩ませられることとなった、と。
ここまでは、まあ「歴史」だが、グロスマンはさらに「今ここにある問題」を指摘する。アメリカにおける重大な暴力犯罪は1957年以来激増している。その背景には、暴力シーンにあふれたハリウッド映画や、ある種のビデオゲームの影響があるのではないか。画面に現れた敵を銃で撃つと血しぶきを吹いて倒れる類のビデオゲームは、兵士への「条件付け」そのものだ。おまけに、軍での訓練では、指揮官の命令無しに発砲したり、「非戦闘員」を撃ったりすれば厳しい罰を食らうが、ビデオゲームじゃ無問題だ、と。
著者は元アメリカ陸軍中佐で大学教授。実に説得力がある。「犯罪増加はメディアのせい」との論を聞くたびに「関係にーよ」と思っていたのだが、今回初めて強い説得力を感じた。銃規制が徹底している日本ならともかく、合法非合法取り混ぜて銃器があふれまくっているアメリカにおいては、切実な問題だろう。
余談ながら、原題「On Killing」に対しての、この邦題は、なんか色眼鏡がかかってて嫌。帯のコピー「戦場のリアリティ 殺人への抵抗感をどう越えさせるのか 元米軍将校による戦慄の研究書」も同様。「ちくま文庫」だからしょうがないのかもしれんが。
ISBN:4-480-08859-8
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