とみやまふさ
(97/09/20)
もう半世紀以上昔の話ですが、今のアホ学生の億万倍、勉学に励む全国の学生さん達のもとに突然、東京神田在住の「とみやまふさ」なる未知なる女性からのラブレターが届き、彼らの胸をあやしくときめかせるという事件が発生したことがあるそうです。それは実は「ふざんぼう」という出版社の出版案内&予約勧誘でした。ダイレクトメールという言葉さえ無かった時代のお話です。
その冨山房のお話。かの出版社は、ついこないだまで東京は神田神保町の「すずらん通り」の一画に書店を構えてました。1Fワンフロアーのみの狭い店内ながら、品揃えは「いかにも」とうならせられる陣容。ベストセラーを平積みにして仰々しく煽り立てるのではなく、「新刊」はキチンと揃え、かつ「歴史」「思想」「美術」「心理」「ビジネス」てな書棚の分類ごとに、そのジャンルに興味関心を持つ人間が読むべき本が、さりげなくも確実に揃えてある・・・そんな書店でした。
三鷹にとっては、「買わないまでも前を通れば必ず店内に入り一周して書棚をチェックする書店」でしたね。閉店時刻が午後8時と遅めなのも嬉しかった。「本の町」神保町でも午後8時まで開いている書店はそう多くありませんから、何かと重宝させていただきました。
ところが、その冨山房書店がこの度、閉店してしまいました。その理由は三鷹は知る由もありません。ただ、ここ数ヶ月から半年ほどの、かの書店の変貌については、それなりの観察をさせていただいておりましたので、読書子(誰やそれ?)の考察における参考の一助になるかとも思い、以下、簡単に紹介させていただく次第です。
発端は店内改装でした。冨山房書店はある日突然、フロアーの奥半分を仕切り分け、何やらトンカン工事を始めました。これはまあ、書店に限らず店舗ではよくある話です。売れるモンを売りやすい場所に置いて、積極的にアピールしなければ、生き残れないのがこのご時世・・・というよか、近世以来の日本の小売業の常識です。
ところが数週間後、出来上がった店舗を見て、三鷹は仰天しました。書店の奥半分が本とは無縁の空間に変貌しているのです。置かれているのは本ならぬ、犬の置物、犬のぬいぐるみ、犬を意匠としたポスター、カレンダー、文房具類。犬犬犬犬犬犬犬、犬のオンパレードです。少なくとも三鷹は「書店」と思い込んでいた店の半分が、「犬グッズ専門のファンシーショップ」に変貌してしまったとしか理解のしようがありません。
変わったのがもう一つ。今や半分になってしまった書店スペースの、レジに立っている年配の女性。何ちゅうか「ただものではない雰囲気」をぷんぷん漂わせた人でした。年の頃からして「アルバイト」では絶対無いし、「パート」だとも思えない。横に四十代とおぼしき年格好の男性がついていながらも、女性本人は堂々満々の笑みをたたえて客に対峙している。そんな一種独特の雰囲気。神保町界隈で例えて言うなら、岩波ホールの某女性支配人のような雰囲気と言えば、分かる人は分かるでしょう。
この女性のレジを三鷹は一度体験しましたが、よりによってその時、バーコード読み取り不能のトラブルが発生し、勘定が済むまで長らく待たされました。レシートは要らないからお釣りだけくれないか、と申し上げたのですが、「それでは済みませんので、お待ちください」と、笑顔で拒絶されました。かの女性と周囲の店員とのやりとりから察せられるところ、「ここでこんな間違いが許されるの?」てなレベルの、それはまあ大変なトラブルだったようです。
その冨山房書店が突然閉店となった、その背景事情等、ご存じの方がいらっしゃったら教えてくれませんか? 三鷹はあのレジの女性こそ、伝説の「とみやまふさ」だったのではないか、と勝手に想像しておるのですが・・・
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