岩波文庫を見直そう

(99/01/06)

 年明け早々に岩波映画が倒産したり、近年ろくなことがない「岩波」だが、かつては「朝日・岩波」と並び称された、左翼進歩派文化人の王城の一つだった。

 往時の岩波書店社長・安江良介は、北朝鮮を崇拝し、金日成を「世界に例を見ない政治家」と手放しで礼讃する論客でもあった。ところが、ベルリンの壁崩壊に端を発するドイツ統一、東欧崩壊からソ連解体に至る、社会主義諸国の「反動」(この言葉は本来「革命」に対する抵抗運動を意味する)を明証とする、共産主義の失敗が決定的になって以来、「朝日」の実売部数は下落する一方。かたや「岩波」も凋落を止めること能わずというのが実情だ。

 自業自得とは言え、「映画」はともかく、万が一「書店」本体までが潰れる事態に発展したなら、読書人にとってはとてつもない損失であろう。

 特に岩波文庫。「文庫」が「古今東西にわたって文芸・哲学・社会科学・自然科学等の種類のいかんを問わず、いやしくも万人の必読すべき真に古典的価値ある書」を安価に読者に提供せんとする、崇高な理想を掲げた出版物から、「限りなく雑誌に近い、読み捨てペーパーバック」に堕して幾星霜。その理想の一部たりとも持ち続けている数少ない例外の一つが、上記の檄文を発刊の辞とするところの、元祖「文庫」たる岩波文庫だ。

 その「崩壊の日」を一日でも先へ延ばすため、この場でささやかなるキャンペーン展開を試みたい。題して、

「意外とおもろい岩波文庫。だまされたと思って読んでみろ、この一冊」

 三鷹が厳選してお薦めするのは、以下の5冊である。

「忘れられた日本人」 宮本常一 青164−1
「猫町」 萩原朔太郎 緑62−3
「怪談」 ラフカディオ・ハーン 赤244−1
「バック・ファンショーの葬式」 マーク・トウェイン 赤311−7
「伝奇集」 ホルヘ・ルイス・ボルヘス 赤792−1

 選んでから気がついたが、どれも短篇集だ。適当にページをめくって、面白そうなものから読めばよろしかろう。

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