労働災害
労災とは
この労働災害は起こってしまった場合は多くの場合は速やかに手続が行われて問題になりません。しかし,大きな怪我をしてしまった場合,労災か否かで労働基準監督署と争いになることがあります。この様な場合はきちんとそれらを得意とする弁護士に相談されて対処するべきですが大体の概略だけお話しします。細かいところなので必要ない方は労働災害に当たるかなどの部分は読み流してください。メディカル関係,「労災認定とその問題点」等のテーマに興味のある方は読まれると面白いかもしれません。
<労働災害>
業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害・死亡に対して迅速公正な保護をするために,労基法や「労働災害保障保険法」(以下「労災保険」)で治療費などの給付や「労働福祉事業」などをしています。
この労災保険は他の健康保険や雇用保険などの様に加入している労働者と加入しない労働者がいると言うことはなく,適用事業に勤める労働者はすべてこの適用を受けます。アルバイトパートだからと適用を受けないと言うことはないので覚えておくと便利です。事業主の方は必ず保険関係成立の日より10日以内に「保険関係成立届け」というものを労働基準監督署に提出します。保険金額を計算する保険料率は事業所によって違い,労災が少ない事業所ほど安くなっています。ここでも労災を減らす施策があるのですね。
会社によっては保険料率を増やしたくないために、労災としないようにしようとする場合がありますが、だまされないように勉強をしましょう。
参考:「労災かくし」は犯罪です。
○労働災害とは
業務災害と通勤災害がありますが取り敢えずは業務災害を中心に説明します。労働災害とは,労働者の業務上の負傷,疾病,障害,又は死亡です。
業務上の意味はちょっとややこしい言い回しですが「労働者が労働契約に基づき事業主の事業主の支配下にあるなかで,業務又は業務遂行行為を含めて労働者が労働契約に基づき事業主の事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められるもの。」となります。裁判で多く争いになるのはこの点なのであえて乗せてみました。要は簡単には労働時間であるかには関係が無い業務遂行中(「業務遂行性」),ということと,それに基づく因果関係があると言うこと(「業務起因性」)と考えて良いと思います。
○例
:業務遂行性は
(1)作業中:作業に通常伴う排便や引水の為の中断を含みます。
(2)休憩時間:事業場内の休憩中や始業前就業後の作業場内での行動も含みます。
(3)出張,事業外労働:事業場外で労働している時や,出張中の移動や宿泊中も含まれます。
これ以外の強制されない社外での忘年会の最中は労働災害に含まれません。
:業務起因制は
(1)業務時間中は自動車が飛び込んできた場合や狂人が刃物をもって飛び込んできた場合などの外部要因による物は含まれません。
仕事中の喧嘩が原因で起きた怪我や,禁止されている酒を飲んでの酒気帯の作業で起こった災害なども含まれません。
阪神大震災などで認められた様に地震に際して災害を被り易い業務上の事情があれば労働災害となります。
(2)休憩時間等は排便や移動中の物や事業設備の欠陥不備による物でないと認められません。
休憩中のスポーツの怪我は労災になりません。
(3)事業外労働や出張の場合は広く認められます。宿泊施設で酔って階段から転倒した物も認められたことがありますし,出張先ホテルで就寝中に焼死した場合も業務起因性があるとなっています。
○業務上の疾病
労基法規則35条に業務上の疾病が列挙されています。業務上の疾病といえる物はほとんど網羅的に列挙してあるとのことです。
:列挙疾病
災害性腰痛や熱い場所での熱中症,非災害性腰痛,振動機器操作の白ろう病,頸肩腕症候群,酸素欠乏症,じん肺又はじん肺合併症,伝染性疾患,職業癌,等が列挙されています。
これ以外にも業務による精神負担を原因とする心因性精神障害(反応性鬱病など)がこれに該当し得ます。
ここら辺は時々しか争いになりません。問題はこれらに入っていないものたちです。
:脳・心臓疾患
脳出血,くも膜下出血,脳梗塞,心筋梗塞,等の,脳・心臓疾患は動脈硬化や動脈瘤,心筋梗塞等の基礎疾患があってそれが業務外の要因である「年齢」「日常生活」等の要因で徐々に悪くなって発症する物だという認識で列挙疾患には入っていません。
脳動脈瘤などは精神的ストレスが原因で出来ることも有り,これが破裂することによるくも膜下出血等も業務に起因するという考えもあります。が,じっさいの認定は細やかにされます。
前述の労基法規則35条9号の「その他業務に起因することが明らかな疾病」に当たる必要があります。そのためにはこれらの病気が発症するまでの因果関係として悪化が加齢や日常生活の要因による度合を越えて業務上の原因により「急激に著しく増悪」して発症したことが認められなければなりません。
そのためには普段にない異常な出来事(教師が非行生徒の対処の為に時間外も学区の巡回や父母との面接におわれていた等)や特に加重な業務への従事(決算期の人出不足による長すぎる残業など)等がなければ認められませんでした。また,従来は1週間前までの事情しか考慮されなかったのですが,最近はそれらは緩和されて,脳心臓疾患に付いても広く認められる様になりました。1※
<労災保険法>
○業務災害
労働災害と認められますといろいろな形で給付を受けることになります。これらを見てゆきます。
:療養補償給付
これの内容は通常の治療費です。原則これになります。
普通の軽い労災であればこれの支給のみとなります。実際には労働者に渡されることは少なく,病院に直接渡されます。初診のとき,労災である旨言いますそうすると事業所と仲の良い労災指定病院は「では早めに5号を持ってきてくださいね」といわれます。普通の労災指定病院ですと取り敢えず,治療費の全額を立て替えることになりますので注意です。4針くらいの手切り事故で大体2万円ぐらいかかります。その後決められた5号様式という書類を病院の会計か医者に渡す手続をすませますと病院からその立て替えたお金は返還されます。健康保険証などは必要ありません,出してはいけません,治療費は保険組合からではなく,労災保険から出るからです。手持ちがない場合は治療後にその旨言えば大抵許してくれます。(経験者談)
:休業補償給付
療養の為に休業せざるを得ないとき,4日目から給付基礎日額の60%が休業補償として支払われます。最初の3日分は労基法の定めるところにより,同じく60%を会社に請求することになります。また,「労働福祉事業」から給付基礎日額の20%の「休業特別支給金」が支給されます。
:障害補償給付
ある程度症状が落ち着いた療養を終了した段階で障害が残った場合,障害の程度に応じた割合の障害補償給付と言う物が支給されます。
一定の年金が毎年支払われます。ただ,毎払一時金という金額に満たないうちに死んでしまった場合などは,その差額が支払われます。また,この年金にはボーナスは計算されないので「労働福祉事業」からボーナス相当の「障害特別年金」又は「障害特別一時金」が支給されます。
:遺族補償給付
労働者が死亡した場合で配偶者など死亡した労働者の収入で生計を維持していた者がある場合,遺族保障年金がし払われます。その要件に基づき人数で支給の額が変ります。この年金の計算も基礎給付日額を基に計算されるのでボーナスなどが計算されませんそこで「労働福祉事業」からボーナス相当の「遺族特別年金」が支給されます。
ただ,年金を支払われるべき人がすべて死んだりしていなくなった場合はそれまで支払われた年金が基礎給付額の1000日分に満たない場合はその差額が一括して支払われます。この場合も「労働福祉事業」からボーナス相当の「遺族特別一時金」が上積み支給されます。
:葬祭料
労働者死亡の場合,葬祭に通常必要とされる費用を考慮して労働大臣が定める金額が支払われます(労災保険17条)
:傷病補償年金
療養開始後1年6ヶ月経過して直っていない場合は,休業補償を打ち切ってその時点の障害に応じた割合の「傷病補償年金」になります。打ち切るといっても休業補償だけで,療養補償は治療が終わるまでつづきます。この場合も「労働福祉事業」からボーナス相当の「傷病特別年金」が上積み支給されます。
:介護補償年金
傷病補償年金,障害補償年金を受ける権利を有する労働者がその年金の支給事由となる障害で労働省令に定める程度の物の場合で常時又は随時介護を必要とする場合はその労働者の請求によって介護の為に通常必要とされる費用が支払われます。
○手続
労災にあった労働者は請求をしなければなりません。その上で労働基準監督署長が決定をして,それで保険給付請求権を取得します。
:不服申立
この決定に不服のある人は各都道府県労働基準局内の労働者災害保障保険審査官に審査請求をします。
さらに不服がある場合は労働本省内の労働保険審査会に対して再審査請求が出来ます。
そのあとに始めて労働基準監督署長を相手取り,行政裁判を起こすことになります。
不服がある場合は必ず再審請求をしなければなりません。これをしないで裁判を起しますと却下されてしまいます2※。
:時効
療養,休業,葬祭料の給付は権利行使しうるときより2年。障害,遺族給付は同じく5年を経過すると時効にかかって請求できなくなります。
普通の人が労働災害であると判断できるような,事実を知ったときから時効は進行します。
障害などの手足のしびれや傷みなどの場合は症状が固定したときから時効が進行します。
○通勤災害
普通に通勤する途中の災害は通勤災害としてほぼ業務災害と同様の保障がされます。
通勤災害は,普通の方法の就業の場所と住居の往復ですが,その中には例えば帰りにスーパーによって夕飯の買い物をするなども含まれますし職業能力開発の為の受講や病院によったりするなども最小限である限り「通勤」と認められます。
組合活動やサークル活動で残った帰り道は常識の範囲内の時間である限り通勤といえます。
例えば残業で遅くなり,朝も早いので近くのカプセルホテルに泊まった場合はそのホテルも住居となって,その往復は通勤となります。
外出からの直行直帰等の場合は出先で仕事が終わった場所が就業の場所となってそこからの帰り道が通勤となります。
通勤とされる為の経路は普通労働者が使う方法で良いので,例えばバスが混んでいる場合の電車やタクシーも含まれます。
民法上の請求との関係他
民法上の損害賠償の要件を満たす場合当然その請求権はあります。
これらは密接に結び付いていて重要です。
例えば民法上の請求可能額と労災保険支給額が以下のように民法上の損害賠償の方が多い場合。
−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−+
使用者に対する民法上の請求可能額|精神損害は別|
−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−+
−−−−−−−+ : :
労災保険給付額| : :
−−−−−−−+ : :
|←この差額分が→|←この分も→|
使用者からもらえる|もらえる,この分は労
|災保険給付とは関係がない
と言うことになります。
つまりは労災保険で支払われた分使用者は責任を免れることになります。但し,精神的損害は労災保険給付とは関係無いので全額使用者からもらえることになります。
逆に労災保険給付が損害賠償可能額よりも多いことが普通ですがその場合は労災保険法の趣旨に則ってそのままで良いことになります。
ここからがややこしいのですが,例えば通勤災害の場合,交通事故だったりすると,事故を起こした相手がいます。
事故を起こした人は損害賠償を支払わなければなりません。
一方通勤災害も労災保険給付があります。
「事故を起こした相手」
\
損害賠償↓ |
L−→ −↓労災給付した分
「被害者の労働者」 |加害者の人に
↓請求して帰してもらう
労災保険給付↑ |
/
「労災保険」/
両方もらえる訳では有りません。もらえる額は労災給付額又は損害賠償請求可能額です。ですから
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−+
|加害者に対する民法上の請求可能額|精神的損害|
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−+
+−−−−−−−+ : :
|労災保険給付額| : :
+−−−−−−−+ : :
↑←この分を →↑←この差額分が労働者がもら→↑
労災保険(国)が|える
加害者に請求出来|
る |
と言うことになります。つまり,使用者以外の加害者がいてその人に請求出来る場合は労災保険(国)はその加害者に損害を支払わせ,労災保険として給付した分返してもらうことになります。但したとえ民法上の請求可能額が労災保険給付額より少なかったとしても,精神的損害や積極損害(入院中の雑費など)は関係が無いので使用者に請求出来る精神的損害分から国が払った分をもらうことは出来ません。
+−−−−−−−−−+ +−−−−−+
|民法上の請求可能額| |精神的損害|
+−−−−−−−−−+ +−−−−−+
+−−−−−−−−−−−−−+ :
|労 災 保 険 給 付 額| :
+−−−−−−−−−−−−−+ :
↑←この分を →↑ ↑←この分→↑
労災保険(国)が加害| |が加害者から労働者がもらえる
者に請求出来る|
<!!!ここが注意!!!>
『業務災害通勤災害の大きい怪我の場合絶対に示談はしないこと!!』
損害全部に付いて示談をした場合は国もその分請求できなくなりますのでその時点で労働者は保険給付の権利を失うことになります。
「労災だから労災保険から払ってもらえるから良いですよ。」等と勝手に示談をしますと両方から何ももらえず,大きな怪我と治療費の請求だけが残ると言うことになりかねないので注意です!!。
<法定外の補償>
○損害賠償
損害賠償は使用者や第3者に請求出来る場合があります。ここからは細かい知識です。
:不法行為責任(民709条715条)
使用者の故意又は過失で損害を被った場合は不法行為責任として損害賠償が出来ます。例えば危険であるとわかっていることを何も知らない労働者に何等対策・準備をせずにさせて事故を起こした場合。
この場合は重大な過失があるといえ,95%使用者の責任とした場合,治療費は当然として,休業補償に付いては労災保険の60%では不足で残りの35%分が請求出来ることになります。更には精神的損害(民710条)も請求できます。
また同じような場合で楽団員が指を怪我した場合はその損失は労災保険で行われる補償を大きく上回る損失があることになります。
この指示は代表者たる社長が直接行うことは有りません。大抵は同じ労働者の上司が行います。ですから,会社に責任が無いと言うことにはなりません。この場合はその様なことを防止するにつき使用者が相当の注意を払わない限り連帯して責任を負うことになっています。(民715条)これを「使用者責任」と言います,セクハラのところでも出ました。
いずれの場合も精神的損害を含め,実際の損失額が損害賠償金額の上限となります,ここから労働者自身の過失分が引かれます(民722条)。けして,もうかったりはしないので怪我は絶対にしない方が良いです。
:占有者責任(民717条)
事業場の建物,事業場内の鉄塔などは使用者の者であることがあります。また占有は使用者がしています。
例えば,クレーンの基礎のコンクリート部分に欠陥があってクレーンが倒れてきた場合の責任がこれに当たります。この場合は無過失責任とされていて,使用者はその土地の工作物を持っていると言うだけで過失があろうがなかろうが責任を負います。借りているだけの場合はその様な事故を防止する為に必要な注意を払った場合でなければ責任を免れず,免れたとしても所有者に請求できます。
:債務不履行責任
債務不履行責任といいましても最初の方で労働契約は労働力を提供して賃金をもらうという双務契約であるといいました。とはいえ,会社は賃金さえ払えば良いというのでは有りません。安全に働かせる義務があります,セクハラのところでも出ました安全配慮義務があります。この安全配慮義務は例えばレストランで食事をする時なども,掛けた食器で怪我をしないように配慮する義務などとして広く生活に見えない義務として取り込まれています。
使用者と労働者の場合も同じですが,この場合は労働安全衛生法の明文化がされておりますのでかなりしっかりとした義務といえます。
この義務に違反して労働者が怪我をした場合使用者は労働者に債務不履行による損害賠償を請求できます(民415条)。
と言う訳で使用者に損害賠償を請求する場合はこれによる物が多いです。
損害賠償を請求する場合常に裁判の場合立証責任と言う物が有りまして,安全配慮義務の存在を立証して,かつ,その義務の不履行を証明しなければなりません。
しかし,債務不履行責任は立証責任は不法行為責任に比べますと若干有利になります。落とし穴も有りまして,債務不履行は時効が10年(民167条),不法行為責任は20年(民724条)と長くなっています,また,遺族の精神的損害に基づく損害賠償は不法行為責任にしか許されません(民711条),それから不法行為責任はその不法行為のときから損害に対して利息が発生しますが,債務不履行責任のときは請求のときからと利息が少なくなります。
:第3者による損害
使用者でない人が労働者に対して損害を与えた場合です。例えば下請けの会社の労働者が元受けが工事している現場で怪我や命を落とした場合,元受け会社も下請け会社と同様の責任を負うことになります。法律的には,労働安全法規や条理に基づく責任ですが,価値観的にはそうしないと零細の下請け企業では支払いきれない損害であることも多いからです。
通勤中の交通事故もこれに当たりますが,示談に付いては前に述べた通りなので注意です。
○上積み補償
労働協約や就業規則で例えば労働者が労働災害で死んでしまった場合など労災保険とは別に上積み補償をすることが普及しています。
就業規則や労働協約に決められていれば,労働者は法的にも請求権を取得することになります。
:他補償との関係
労災保険給付とは関係のない上積み補償なので労災保険給付等から更にもらえます。第三者による損害の場合は,この上積み分は第三者に請求出来る場合は会社が求償権を取得することになります。
使用者は,不法行為責任などで労働者に損害賠償を支払わなければならない場合,この上積み補償の分は支払えばその分の損害賠償は支払ったことになり,労働者は支払われた分に付いては請求できない事になります。使用者が支払うべき損害賠償が上積み補償を越える場合は,依然越えた分の支払義務はある事になります。
<まとめ>
これらは実際に事故にあったとき問題になります。死亡事故特に不服申立の場合は深刻です。不服の場合はいつもは助けを求める労働基準監督署(行政機関)を相手に争うことになります。前にも述べましたが相談は弁護士に!と言うことになりそうです。
民法上の請求は特に金額が大きい場合は弁護士に依頼します。死亡事故など使用者の故意過失,第3者が絡む場合など,この様な損害が大きい場合は労災保険は迅速さをモットーとして取り敢えず支払われるものとなります。但し,労災保険として支払われた分に付いては国が裁判を起して請求する権利がありますので,場合によっては検察官と共同で請求することになるかもしれません。
1※解釈:平7.2.1基発37号
2※判例淀川労基署長(聖徒病院)事件大阪地裁平8,7,29