定年退職,合意解除
退職とは雇用関係からの離脱です。別の言い方をしますと雇用契約を解除することです。ですので退職の方法も契約によって変ります。
大まかには期間を定めない契約と期間雇用とで大きく違います。パートアルバイトなどは普通期間雇用なので確認が必要です。
期間の定めのない契約を中心に説明します。
<退職の原則:定年退職,合意解除>
○定年制
労働者が一定年齢に達したとき労働契約が終了することを言います。
いわゆる「定年退職」というやつです。これに対して「定年解雇」というのが有りますが,これは解雇の一種なので解雇権濫用法理などの法規制がそのまま適用されます。(後述「解雇」参照)
定年退職は男性と女性で変えることは出来ません。また,平成10年4/1から60歳以下の年齢で定年制を決めることは出来ません1※。但し,「高齢者が従事することが困難であると認められる業務として労働省で定める業務」の場合は適用除外になります。
ここで注意は,60歳以下の年齢で定年制を定めた場合はその規定は無効になって定年の定めの無い契約になってしまうというところです。来年からの施行ですから事業主の方は注意が必要です。
また職種別で定年を定める会社も有りますがそれは直ちに違反と言うことにはなりません。内容を実質的に判断してそれが権利の濫用,不平等の取扱になるかを慎重に判断する必要があります。出来れば他の職種に転換することも考えるべきとなる可能性があります。
定年後,新たに再雇用をする会社も多いです,その場合,再雇用するかは原則として使用者の裁量という事になりますが,例えば,慣行として今までは定年になった労働者で希望する者は例外なく雇ってきた場合は,その様な取扱が慣行として労働契約の一環を為すものと考えられ,再雇用を求める権利があるものと言えます。2※つまり,再雇用するという黙示の契約があることになる訳ですね。
この場合前の契約が切れて新たに契約を結ぶことになりますが、労基法上の扱いとしては継続雇用と言うことになります。ですので、雇用保険、有給などは継続されて行きます。
<合意解約>
合意解約はお互いに「退職して良いですか」「良いですよ」と言う契約のことで,お互いに納得した物の場合です。この「退職して良いですか」というのが申込みで,「良いですよ」というのが承諾です。
お互いに納得してのことであれば,一番問題になりません。ところが気が変ったり,本心から言った物でない場合は非常に問題です。
:申込み
例えば,脅迫されて書いた退職届けや,会社からだまされて書いた退職届け等,本心から言った物でない場合は無効を主張できます(民96条)。
最初は本心で書いたけど気が変った場合は問題です。民法の原則からは申込みが到達した時点で撤回は出来ないことになっています(民524条他)。ですから,郵送でだした場合はその郵便物が届く前に撤回の意思表示をしないと間に合わない事になります。この点退職届けは使用者から承諾の意思表示がされるまでは撤回できるとされていますので少し有利ですね4※。
:承諾
この承諾は,「ではこの退職届けは受理しよう」というのがこれに当たります。手渡しの場合には撤回の余地が無いですね。ただ,承諾できる人も承諾能力のある人でないといけないので,その権限のある人の受領でなければならない事になります。例えば取締役人事部長など3※。でも社長が一番無難です。この合意解除は一方的な辞職と違い,相手方に合意を求める点で違いがあります。
○退職し際しての処理
使用者も労働者もいろいろなことを遅滞なく行う必要があります。
例えば使用者は退職金などの支払いや社内預金の払い戻し,など,や各種書類の発行,労働者は必要な引き継や貸与されている物品の返還などをする必要があります。
:書類の発行
離職表や源泉徴収表などを清算して渡します。労働者が請求した場合は使用期間,業務の種類,その他事業における地位及び賃金に付いての証明書を請求した場合に於いては,使用者は遅滞なくこれを発行しなければなりません(法22条1項)離職表などがこれに当たります。
また,他の会社に転職するのに妨げになるような労働者の国籍,信条,社会的身分,労働組合運動に関する事柄を通信してはなりません(法22条3項)。いわゆるブラックリストの禁止と言われる物です。
:金員の返還
労働者の権利である,積立金や社内預金,保証金など,労働者の権利に属する金員は請求があってから7日間に返還しなければなりません。
金額など争いがある場合は,争いがない部分は取り敢えず7日以内に支払わなければなりません。
退職金は,これに含まれないので注意です。
<労働者からの一方的な辞職>
会社がなかなかやめさせてくれない場合があります。場合によってはどうしても辞めるなら懲戒解雇だ!!といわれる場合もありますこれは脅迫に当たる場合もあります。会社がやめさせてくれ無い場合の一方的意思表示としての辞職の仕方に付いて述べます。
ここで重要なことは、労働契約は契約ですので会社も労働者も対等の立場で契約していると言うことなのです。つまり、権利義務は同等で、それらを交換することで成り立つ契約、「双務契約」ということなのです。ですので退職関係も同等の権利を持つはずで、労働者も使用者も勝手に契約の解除はできません。また、どちらも原則としては同等の手続きで解除できるはずです。
これは、例外として、特別法的規定としての民法の雇傭に規定と裁判の判例によって、立場の弱い労働者にテコ入れを少ししているのです。
どの点で修正されているかを意識しながら見てゆきましょう。(例外と言うことはその解釈は制限的になされる可能性があることに注意です。だって原則と違うんだもん。)
○労働者がする辞職
辞職に付いては民法627条に書かれています。退職の権利は職業選択の自由にかかわる権利なので,かなり強力に保障されています。
つまり,辞職に関する規定は労働者の不利には出来ない強行規定と言えます。また,意思表示の方法によっては労働者の一方的意思表示で会社が承諾しなくとも辞職できます。
○期間の定めの無い労働契約の場合(法627条1項)
2週間前に退職届けを出しますと使用者が納得しなくてもしても退職としての効力があります。
○月給制(法627条2項)
月給制,週給制等,期間をもって報酬を定めている場合は解約は閉め日で区切られた期間の前半に申し出れば次期以降に辞職できます。時給日給の場合にはこれは適用が無いので上の2週間で十分です。
毎月月末に閉めて,翌月15日に給与を払うことになっていた場合,例えば6月14日に退職届けを出した場合は6/30で退職という事になります。ところが6/15日になりますと7/31日で退職という事になりますので注意が必要です。閉め日によっては最高47日の期間が明きますので注意が必要です。特に,次の就職先が決まっている場合は注意が必要です。
○6ヶ月以上の期間をもって報酬を定めている場合(法267条3項)
年俸制など6ヶ月以上の期間をもって報酬を定めている場合は,3ヶ月前に言えば良いことになっています。つまり3ヶ月が限度という事になりますね。
この予告期間は,合意解除の場合には必要ありません。これはお互いに契約として行う物で,個別具体的同意に基づく物だからです。
法定の必要な予告期間を無視してすぐに辞めてこなくなってしまった場合は,法定の予告期間分の労働契約の債務不履行になります。従って債務不履行責任としての損害賠償責任を負います。
入社後すぐに来なくなってしまった例では,平成4年の判決で70万円の支払いをさせられた例があります5※。もちろんこの金額はいろいろな事情によって変りますが,十分に注意が必要と言えます。
:方法
できる限り「合意解約」によることが望ましいです。やむを得ない場合にこの辞職の規定を使い,退職届けを出します。一方的な辞職の場合,その予告期間をすぎれば自動的に効果は発生します。形成権ですので相手に到達すれば効果がありまして,それ以降の撤回は許されません。
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平成 年 月 日|
戊川株式会社 |
代表取締役 |
戊川 丙男 殿 |
甲野 乙平 |
一身上の都合により、平成|
年 月 日付けで残っ|
ています有給休暇すべて消化|
した上で退職いたしますので|
お届けいたします。 |
届出人 |
東京都○○区○○町1−1−|
1 |
甲野 乙平 |
被届出人 |
東京都○○区○○町2−2−|
2−202 |
戊川株式会社 |
代表取締役 |
戊川 丙男 殿 |
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内容証明横書きバージョンですとこんな感じになります。
縦書きですともっとすっきりします。
詐欺脅迫による撤回に付いては合意解約と同じ問題点がありますので参照ください。
○公務員の退職の承諾
国家公務員の場合はこの民法の原則は使えません。法律で,国の承諾が必要とされているからです。公務員の方は,詳しくはハンドブックなどを参照ください。
<退職と年休の消化に付いて>
有給が残っていてそれを消化した上で退職したい場合があります。その場合は一番争いがない方法としては,退職の為に必要な期間と,有給を消化する為に必要な期間を足した期間を予告期間した上で有給を消化する旨明示します。
その後,上司とどの日に有給を入れるかを相談します。取れないと言われたら,法定の予告期間分出勤してその後は届出の上有給を取得します。
| 有給残日数 |法定予告期間|
↑ ↑ ↑→これ以前に出す。
退職日 最終出勤日 届けを出す日
裁判ではあまり争われたことがないので実際にここまでする必要があるかについては分かりませんが、労働者としては念のためここまでしておいた方がよいと思われます。
使用者としては、この用件を満たさなかったとしても、特に就業規則で退職前の有給所得を制限しているような場合でない限り、有給取得をさせる方が争いがないことになります。いずれ、有給消化を許さない方向は使用者としては避けた方がよいことになります。
上の内容証明の内容を
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1,一身上の都合により、平成 年 月 日付けで退職いたしますのでお届けいたします。
2,平成 年 月 日から平成 年 月 日まで有給休暇を取得します。
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にするとグーです。
就業規則で退職の際年休権の取得が制限されている場合があります。それらも確認して考慮に入れて,上記の日にちを設定します。
<期間の定めのある契約の終了>
期間の定めのある労働契約の場合,その期間の終了を以って契約は終了します。しかし,更新をする場合もあります。更新を繰り返して自分が果たしてどの契約か解らなくなる人もいます。短い契約にしてこまめに更新をする人もいます。
○期間の終了に伴う解除
原則は期間の終了に伴い契約は終了します。それまでは労働者は原則として勝手にやめることはできません。
:やむを得ない場合の解除
例外として、やむを得ない事情ができた場合は直ちに労働契約を解除することができます。しかし、そのやむを得ない事情が一方の過失によって生じたときは損害賠償の責任を負うことになります。
:期間の終了と自動更新
期間を定めた契約の場合特に新しく契約を結び直さなくとも契約が無くなって終わってしまうのではなく、特に異議を述べずに期間終了後も働いていた場合は同じ内容で契約が更新されたことになります。ただし、その場合は契約の解除は1年後でないとできなくなるのではなく、期間の定めのない契約と同じように、月給などの期間で報酬を定めた場合はその期間の前半で3ヶ月を越えない期間前に解雇予告をして、解除することができて、使用者は30日間の予告が必要になります(民629条)。
これは契約をし直したような場合には適用されないのでその期間終了の時でないと解除できないことになります。
といってきましたが、就業規則などに、労働者が2週間前や1月前に言えば期間の途中でも契約を解除できるとかかれていた場合は、できます。これらは労働者に有利な方向へは変更可能です。ただし、その期間をのばしたり、使用者側からの解除を短くすることはできません。
:更新による雇止の有効性
お互いに異議を述べない場合は契約は同じ内容で更新されると言いましたが、では異議を述べた場合にはどうなるかと言いますと、当然に契約は終了するのが原則です。
原則と言うからには例外があるのでして、やめたい労働者にとっては終了する方がよいので終了しますが、立場の強い使用者が更新拒絶をする場合は恣意的に理由もなく更新拒否することは労働者の地位を不安定にして権利行使の必要性と、それをした場合の相手方の不利益を考慮して、権利の濫用に当たる場合があるのではないかという話があります。
全くその通りで、そう考えるべき場合が多くあります。詳しくは「解雇」の一番最後の方で詳しく述べます。
○1年以内の契約期間のある場合
まず,会社が辞めても良いと言った場合は当たり前ですが問題なく辞められます。問題は自分から辞めたい場合で,会社が今辞めてはいけないと言った場合です。その場合はまず,就業規則を確認します。そこには退職に関する事項が書いているはずです。書いてあれば,契約期間の終了時か,書いてある通りで辞められます。書いていない場合は契約期間の終了まで待たなくてはなりません。
○一定の事業の完了に必要な期間を定めた労働者
たとえば、工事が完成するまで雇われた現場監督など、期間がはっきりしないがその事業を完了されるまで雇われる労働者がいて、その人たちは、期間は最高1年なのが延長されても良いとされているという話はしました。
この場合は石油プラントなど大きなプロジェクトの技師などで10年を越えるような場合、この期間が終了しない限り、労働者も契約を解除できないとなると、職業選択の自由を浸害されたりします。
この場合は5年を経過しますと3ヶ月前に申出ることで契約の解除をすることができます。
実際にはこのような問題は起きにくいと言われています。というのはそのような場合は契約は雇傭ではなく、その技師との業務委託契約などの契約関係になることが多いからです。
実際の契約の形態を良く確認する必要がある場合の一つといえますね。
<労働者の死亡・会社の消滅>
お互いになくなってしまった場合もこの義務を負うというのは不合理です。たとえば、期間を定めて雇傭されているのにその期間が終わる前に会社が倒産してしまったような場合、仕事がないのに期間終了までの義務があるとして、その分の賃金の支払いを要求できるとするのも、ほかの債権者にとっても不合理であるし、労働者が死亡した場合も、その働くはずだった分を債務不履行として損害賠償をさせるのも不合理といえます。そこで民法はいろいろな修正を加えています。
順に見てゆきましょう。
○労働者の死亡
労働契約は一身専属的なものとされています。どういうことかと言いますと、たとえば雇用契約は子供に相続できないのです。親が死んだから代わりに子供が働くとかできません。人間と会社は契約しているのですからとうぜん死ぬかもしれないことは当然予想できている事柄で、なおかつ相続などの対象にならないので、契約は当然に終了して、使用者は死んだことを理由とする債務不履行による損害賠償は原則として請求できないとされています。
○会社の消滅
会社は二種類あって法人としての会社と個人として会社をやっている場合のものです。法人としての会社は会社という法律的に裁判の相手方となれる地位があるもので、個人としての会社は、社長が自分の取引として運営している会社です。ですので個人会社では、会社の売買の税金の申告も社長の個人の売買として行います。
これをふまえて。
会社が無くなるのは会社(法人)が倒産(破産)するときです。個人会社の場合はその人(社長)が破産するとき、または死んだときです。
破産したときは賃金については前に述べたとおりですが、では、社員としての地位はどうでしょう?
倒産したそのときにはまだ会社員としての地位は無くなりませんので雇用関係も継続されますが、精算という行為が終了した時点で社員としての地位は無くなります。
では個人企業としての会社主が死んでしまった場合はどうでしょう?
労働契約の主体は相続の対象になりません。法人と違って事業の本体が契約の当事者ではないので原則としてその個人が死んでしまった場合、事業が継続したとしても労働契約が終了して労働者は職を失います。
しかし、事業が相続により継続している場合にも常に労働契約が終了してしまうとするのはおかしいため、事業主が死んだとしても、事業が継続している場合は雇用関係は相続するという判例により修正がされています。※7
○合併
会社が合併すると会社組織は変わってしまいます。(1)すると会社がなくなって新しい会社を作るという話になるのでしょうか?
(2)また、会社同士の契約が売買だったりした場合、会社が売られるということは、従業員も移ることなのか?あるいは会社の設備だけが移るものなのか?
(2)ー1会社の設備だけが移る場合、元の会社は存続したまま設備だけがなくなり、事実上営業活動ができなくなります。会社に責任を追及するといっても、できないのでは?