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後味の悪い噺(壱)

其の壱 扉を閉める

 小学生のときの夢の話。
 学校に、化け物かなにか正体のわからない恐ろしい物が現れて、僕らは必死に校内を逃げ回っている。階段を駆け下り/駆け上り、廊下を走る。振り返ると、その怪物のような奴がすぐそこまで迫っている。鈍足にむち打ち、まっすぐ走り続ける。廊下の先、突き当たりは図書室の入り口だ。
 図書室の向こうではドアを開けて、友人や先生が「おんじ、早く!」と手招きしてくれている。必死で走る。部屋に飛び込む。後ろを振り返る。すると、すぐそこの距離にクラスメートのUさんが、手を伸ばして駆けてくる。でも彼女の背後には、あの恐ろしい怪物が、もう彼女の肩に手をかけようとしている。
 僕は眼を閉じ、ドアを閉めた。

 ドアの向こうでUさんの悲鳴と、猛獣が獲物を貪る残忍な音が・・・聞こえたわけではなかったと思う。あまり憶えていないが、たぶんドアを閉めたあたりで、目が覚めたんだと思う。

 覚醒して感じたのは、きっと、彼女を見殺しにしてしまった自責の念と、謝罪の気持ちだったろう。翌日、学校で実際に会ったとき、謝るべきかどうか、ずいぶん真剣に悩んだように思う。もちろん何もしなかった。ただ、心の中で「ごめん」とつぶやくだけで。

 ときどき、この夢のことを思い出す。そして思うのは、自分のしたことへの反省ではなく、どうして犠牲者がUさんだったのか、ということ。
 彼女は、クラスの中で目立った存在ではなく、むしろ陰の薄い子だったと思う。ほとんど会話したこともなく、好き/嫌い以前に、まず意識に上らないような女の子だった。
 そんな彼女が、どうして選ばれたのか。どうして僕の無意識は彼女を選んだのか。

 今年(2005年)の正月に帰省した折、たまたま思い出して、何となく小学校の卒業アルバムを引っ張り出してみた。懐かしい顔が並んでいる。いまでも付き合いのある数人を除いて、ふだん思い出すことのない級友たちの顔と名前を確認しながら、ノスタルジックな気分に浸る。
 しかし、いない。ないのだ、Uさんの写真も名前も。他のほとんどの級友を忘れていた僕が(あの夢のおかげで)こんなにはっきりと彼女の顔とフルネームを憶えているというのに。卒業前に転校でもしたのか。いや、誰かが転校したという記憶はない。
 Uさんとは、いったい何者だったのか? 

 最後のパラグラフだけ、いま創作したものだが、それ以外は本当の話。今度、本当に卒業アルバム見てみようかな。それでUさんがいなかったら、どうしよう。

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